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鹿児島地方裁判所 平成10年(行ウ)2号 判決 1999年3月19日

原告

瀬下満義

被告

九州運輸局鹿児島陸運支局長

波多江和

右被告指定代理人

下田隆夫

外八名

主文

一  原告の「被告は、別紙物件目録記載の自動車について、抹消登録申請を受理して平成一〇年二月二六日用途廃止による抹消登録をせよ。」との訴えを却下する。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、原告の負担とする。

事実及び理由

第一  申立

一  原告(請求の趣旨)

1  被告は、別紙物件目録記載の自動車(以下「本件自動車」という。)について、抹消登録申請(以下「本件抹消登録申請」という。)を受理しないとの行政処分を取り消せ。

2  被告は、本件抹消登録申請を受理して平成一〇年二月二六日用途廃止による抹消登録をせよ。

3  訴訟費用は、被告の負担とする。

二  被告

1  (本案前の答弁)原告の抹消登録を求める訴えを却下する。

2  (請求の趣旨に対する答弁)原告の請求をいずれも棄却する。

3  訴訟費用は、原告の負担とする。

第二  事案の概要等と争点

一  事案の概要

本件は、原告において、道路運送車両法(以下「法」という。)一五条一項一号に基づく抹消登録申請を受理しないとの被告の行政処分について、(一)法一五条一項一号の抹消登録申請には自動車登録令(以下「登録令」という。)二一条一項三号(当事者出頭主義)の規定は適用されないので法令違背がある、(二)法令違背がないとしても、抹消登録申請に関し登録令一〇条、二一条一項三号の規定は憲法一四条一項に違反するので無効であるとして、右行政処分の取消しを求めるとともに、被告が本件抹消登録申請のとおりの抹消登録をすることを求めた事案である。

二  当事者間に争いのない事実及び証拠上明らかに認められる事実

1  当事者

(一) 原告は、鹿児島県下の種子島に居住し、行政書士を営む者である。

(二) 被告は、自動車の登録に関する運輸大臣の権限を委任された九州運輸局長から更にその権限の委任を受けた者である。

2  本件抹消登録申請

原告は、平成一〇年二月二六日、その所有する本件自動車の用途を廃止し、同年三月七日、法一五条一項一号に基づき抹消登録の申請をするべく、抹消登録申請書、ナンバープレート、車検証等申請書一式を九州運輸局鹿児島陸運支局宛に郵送し、同月九日同陸運支局に到達した。

3  被告の不受理処分

被告は、右申請に対し、登録令二一条一項三号の「当事者が出頭しないとき」に該当するため受理できない旨の書面を添え、同月一一日ころ右申請書一式を原告に返送し、同月一七日原告はそれを受領した。

三  争点

1  原告が被告に抹消登録を求める訴えは適法か否か。

2  抹消登録申請に登録令二一条一項三号(当事者出頭主義)の規定が適用されるか否か。

3  抹消登録申請に関し登録令一〇条、二一条一項三号の規定は憲法一四条一項に違反するか否か。

第三  争点についての当事者の主張

一  争点1(原告が被告に抹消登録を求める訴えは適法か否か。)について

1  被告の主張

原告の抹消登録を求める訴えは、行政庁に一定の作為を求める義務づけ訴訟と解されるところ、義務づけ訴訟は、①行政庁が当該行政処分をすべきこと又はすべきでないことについて法律上羈束されており、行政庁に自由裁量の余地が全く残されていないために第一次的な判断権を行政庁に留保することが必ずしも重要でなく、②事前審査を認めないことによる損害が大きく、事前の救済の必要が顕著であり、かつ③他に適切な救済方法がない場合に、これを認める余地があるものと解される。本件の場合、原告は本件不受理処分の取消しを求めており、端的に右請求により救済を得る方法があるから、原告の抹消登録を求める訴えは、右③の要件を欠き、不適法として却下されるべきである。

2  原告の主張

義務づけ訴訟の要件①については、法一五条の抹消登録は廃車の事実が確認されたときは申請がなくても登録機関が職権で登録すべきものであるところ、本件では廃車の事実が明確になった以上、被告には自由裁量の余地はなく、判断権も留保されないので、要件を充足している。

同②については、本件の抹消登録は被告に殆ど負担がかからず、しかも、この登録は所有者のためではなく廃車の事実を知らない他人のためにするものであり、社会全体の利益のためにするのであるから、事前救済の必要性の要件は適用すべきでない。

同③については、救済の目的が公共の福祉そのものであり、その実現に何ら社会的負担がないときは当然に救済されるべきである。

本件請求については、訴訟において弱い立場にある原告に対し寛容主義の裁判がなされるべきである。

二  争点2(抹消登録申請に登録令二一条一項三号が適用されるか否か。)について

1  原告の主張

(一) 法一五条一項一号に定める自動車の滅失、解体及び用途廃止(以下「滅失等」という。)による抹消登録申請については、当事者出頭主義は妥当せず、登録令二一条一項三号は適用されない。

その根拠は、次のとおりである。

(1) 自動車の滅失等の登録は、不動産登記における建物の滅失登記と本質的に同じであり、不動産の表示に関する登記においては郵送による申請も認められているから(不動産登記法二六条二項)、自動車の抹消登録においても当然に認められる。

(2) 法一五条の抹消登録は、自動車の滅失等の事実が確認されれば、自動車登録制度が公示制度である以上、登録官が当然に職権で抹消すべきものであるから(法一五条二項、三項)、申請人に出頭を強制することは制度の本旨にそぐわない。滅失等の事実の確認、探知は、申請人等からの書面による通知で十分であり、抹消登録申請は右事実の通知、届出にすぎず、書面をもとに職権で登録抹消するというのが法一五条の抹消登録の本道である。

(3) 登録令には法一五条一項一号の申請に関する条文が見当たらない上、滅失等の場合には、実質的に自動車でなくなること、職権抹消が義務付けられること、登録令二一条一項九号や一四条が該当しないことからすると、登録令は、法一五条一項一号の抹消登録には適用されない。

(4) 我が国には、信頼性が高く効率的な郵便や宅配便等の流通網が整備されており、当事者出頭主義によるのは、労力と燃料の浪費、公害の増大、道路の渋滞等を招き、国民経済上の損失であり、環境問題でもある。

通常、申請等の行政手続は、書面等の郵送等で行われており、現に軽自動車は郵便でよいのであり、当事者に無用な負担をかけるのは行政手続法の趣旨に反する。また、抹消登録は所有者のためではなく他人のためにするものであるから、多大な負担をかけさせるのは道理に反する上、数千万人の自動車の所有者に対し、全国で僅か九〇ヶ所しかない窓口に一五日以内に出頭せよというのは余りに不合理である。

(二) 被告が主張する当事者出頭主義の理由は、次のとおり正当でない。

(1) 申請意思の確認による登録の真正担保について

当事者出頭主義は、現実には行政書士の補助者が陸運事務所の窓口に出頭しているのが実態であり、同補助者と申請人とは何らの関係もないから、登録の真正を担保することはできず、完全に形骸化しており、また、それで問題は生じていない。登録の真正は車検証等の添付で十分に確保されるから、出頭までは必要でない。

法一五条の申請と法一六条の申請との誤認の点については、一五条の申請が通常の場合であるから、登録官は職権で訂正、補正すべきであり、また、申請人に電話で確認する方法もあり、それでも問題があれば返送すればよい。一五条の申請が本来なのに、登録官が申請意思確認をするため、経済的有利性等の点で一六条の申請をする者が多くなっている。

(2) 順位保全について

法一五条の抹消登録の場合は、登録の効力という問題はなく、滅失等の事実のみが効力をもつから、順位保全の問題は出てこない。仮に、順位保全の必要があったとしても、出頭は不要であり、郵便等による不利益は申請者が負担すればよい。

(3) 即日補正の便宜について

法一五条の抹消登録申請につき補正が必要であれば、登録官が職権で補正すればよいのであって、問題があれば、申請人に電話で確認するか、書類を返送すれば済むことである。即日補正の便宜を法で強制すべきでない。

(4) 構造上の安全確保と適正な使用という行政目的の達成について

法一五条の抹消登録の場合は、右行政目的とは関係がない。なお、当事者出頭主義による登録制度は、自動車の構造上の安全確保と適正な使用という行政目的の達成に必要、有効なものではない。自動車は既に完成された商品であり、消費財であるから、登録制度自体不要である。

2  被告の主張

(一) 登録令一〇条、二一条一項三号が採用している当事者出頭主義には、次のとおりの機能ないし理由があり、法一五条一項の抹消登録申請にも当然に適用されるものである。

(1) 申請意思の確認による登録の真正担保

当事者出頭主義は、申請人(当事者又はその代理人)自らが出頭することにより、登録官が直接に申請人の真意を確認でき、これにより登録の真正が担保されるものである。抹消登録申請においては、法一五条一項の申請と法一六条の申請とがあるところ、申請人において、この両方を誤認して申請する例が数多くあり、申請人に出頭を求めた上で、その意思を確認し、適正な処理を行う必要が存する。また、自動車の登録は自動車税の課税客体の特定にも利用されており、自動車税は、毎年四月一日現在の自動車の所有者等に課税され、自動車の抹消登録があった場合には、その翌月分以降は月割計算により還付されるため、抹消登録等が申請人の意思と齟齬を生じた場合、地方自治体の課税客体の特定に支障を生じ、税の支払いを巡るトラブルも予想されることから、申請人が出頭して申請意思の確認をする必要がある。

(2) 順位保全

自動車の登録においては、登録申請の先後を申請人の出頭の先後によって決定することにより、受付順位を保持しており、抹消登録申請においても同様に取り扱う必要がある。例えば、①移転登録の手続がされないまま、事実上の転売が重ねられている自動車について、車検証上の所有者と車検証の再交付を受けた事実上の保有者が双方から抹消登録申請をする場合、②二重売買の自動車においては、一方では使用中に事故車となって抹消登録申請をし、他方ではそのような事情を知らずに移転登録申請をする場合などが考えられるから、順位保全の必要性があり、当事者出頭主義を採用する必要がある。

(3) 即日補正の便宜

申請書又は添付書類等に不備又は不足がある場合、申請人がその補正を行わないままだと、登録官は、かかる申請を却下しなければならないが、申請人が出頭していれば、即日補正ができ、登録を完了させることができる。例えば、抹消登録申請においては、申請が法一五条、一六条のいずれか必ずしも判断できない場合があり、そのような場合には、登録官には職権で補正できる権限はなく、申請人が直接補正しない限り、本申請による登録はできないこととなる。そこで、抹消登録申請の場合にあっても、出頭主義を採用する必要がある。

(4) 自動車の安全確保と適正な使用という行政目的の達成

法は、道路運送車両に関して、所有権についての公証を行うとともに、自動車の安全性を確保し、その適正な使用を期するため、自動車の登録と検査の制度を設けているが、このような法目的を達成するには、前提として、自動車の保有実態が正確に把握されている必要があり、そのためには抹消登録を含む全ての登録申請が当事者出頭主義により適正迅速に処理されなければならない。

(二) 原告の根拠に対する反論

(1) 登録令は、昭和二六年に不動産登記法を基礎に制定されたが、表示登記の制度は昭和三五年の不動産登記法改正によって創設されたものであり、自動車の抹消登録を建物の滅失登記(表示登記)と同一視する原告の主張は、沿革的にみて誤っていることが明らかである。そして、登録令制定当時の不動産登記法には、権利の登記しかなかったのであるから、自動車の抹消登録は不動産の権利の抹消登記(例えば、所有権保存登記の抹消登記)と本質的に同じものと考えるほかなく、基本的に当事者出頭主義が妥当することになる。

(2) 法一五条の抹消登録についても、所有者の申請によることを前提としており、職権による抹消登録は申請がなされない場合の補充的な規定であることが明らかである。また、自動車登録においては、不動産登記法の表示登記の場合と異なり、職権による登録を担保するための実質的審査権が登録官に与えられていない以上、当事者の申請意思の有無を重視せざるを得ない。したがって、法一五条の抹消登録につき職権抹消を本道とする原告の主張は、解釈論として到底無理というほかない。

(3) 登録令が抹消登録には適用されないという原告の主張は、登録令一条が「この政令は、道路運送車両法による自動車の登録に関する事項を定めることを目的とする。」と規定していることから、誤った主張であることが明らかであり、原告独自の議論に過ぎない。

(4) 今日においては、当事者出頭主義の機能のうち、申請意思の確認と即日補正の便宜は形骸化している旨の指摘があるが、実際にそれらの機能を果たしている場合があるのであり、当事者出頭主義は、制度として合理的なものである。加えて、当事者出頭主義に基づく自動車登録制度は、制度として定着している上、自動車の登録は登録すべき事由が生じた場合にのみ陸運支局に出頭すれば足り、しかも代理人によって出頭することも許されているのであるから、申請人に過度の負担を強いるものとはいえない。

三  争点3(抹消登録申請に関し登録令一〇条、二一条一項三号の規定は憲法一四条一項に違反するか否か。)について

1  原告の主張

抹消登録申請における当事者出頭主義は、前記のとおり合理性がない上、鹿児島市の陸運支局まで海を隔て一〇〇キロメートル離れた種子島の住民にとって、生活必需品の自動車に滅失等の事由が発生した日から一五日以内に出頭して申請することは、社会生活上困難であり、鹿児島市の住民に比して受忍の限度を超えた負担を、罰金刑付きで強制していることになる。

このように、登録令一〇条、一二条一項三号の当事者出頭主義の規定は、法一五条一項一号の申請に関する限り合理的な理由が無く、社会的、経済的不平等が生じているので、憲法一四条一項の保障する法の下の平等に違反する。

2  被告の主張

憲法一四条一項は、国民に対して絶対的な平等を保障したものではなく、差別すべき合理的な理由なくして差別することを禁止している趣旨と解すべきであるから、事柄の性質に即応して合理的と認められる差別的取扱をすることは何ら右法条の否定するところではない。また、憲法一四条一項が規定する平等原則は、法律上の均一取扱いの要求という意味にとどまり、実際上存在する社会的・経済的不平等の是正は同条項の規定するところではない。原告は、種子島住民と鹿児島市住民とで登録令の均一取扱いがされていないと主張しているのではなく、均一取扱いされている結果、社会的・経済的不平等が生じていると主張しているに過ぎない。したがって、憲法一四条一項違反をいう原告の主張は主張自体失当である。

第四  当裁判所の判断

一  争点1(原告が被告に抹消登録を求める訴えは適法か否か。)について

原告が被告に抹消登録を求める訴えは、行政庁に対し一定の作為を求める訴訟類型であり、いわゆる無名抗告訴訟としての義務づけ訴訟に該当する。

無名抗告訴訟ないし義務づけ訴訟については、憲法の三権分立原理に基づく行政庁の第一次判断権留保の原則に立ち、取消訴訟を原則的な訴訟形態として規定している現行の行政事件訴訟法に照らすと、原則的には許されないものというべきである。しかし、行政事件訴訟法で定める法定抗告訴訟(同法三条)によっては当事者の救済が図られない場合も考えられないではないから、例外的に義務づけ訴訟が許される場合もあるというべきところ、その場合には、行政庁の第一次判断権を侵害しないため、①行政庁が当該処分をすべきこと又はすべきでないことについて法律上羈束されており、行政庁に自由裁量の余地が全く残されていないなど、第一次判断権を行政庁に留保することが必ずしも重要ではないこと(一義的明白性)、②事前審査を認めないことによる損害が大きく、事前救済の必要が顕著であること(緊急性)、③他に適切な救済方法がないこと(補充性)、の各要件を充足することが必要であると解すべきである。

これを本件についてみるに、原告は被告がした抹消登録不受理処分の取消しを求めており、原告は、右義務づけ訴訟によるまでもなく、端的に本件不受理処分の取消しを求める訴訟によって救済を得る方法がある。

そうすると、原告の抹消登録を求める訴えは、少なくとも右③(補充性)の要件を欠くものであるから、不適法といわざるを得ない。

二  争点2(抹消登録申請に登録令二一条一項三号が適用されるか否か。)について

1  自動車の登録手続については、法第二章に定められているほか、法三九条一項及び自動車抵当法五条二項の委任に基づき登録令にも定めがあるところ、登録令によれば、自動車の登録申請は、登録権利者及び登録義務者の双方又はこれらの代理人が地方運輸局の陸運支局(自動車検査登録事務所にあっては同事務所)に出頭して行わなければならないとし(登録令一〇条、自動車登録規則二六条)、陸運支局長は、登録申請につき、当事者が出頭しないときは、その申請を受理しないこととされている(登録令二一条一項三号)。そして、法第二章に定める自動車の登録の種類として、新規登録、変更登録、移転登録、抹消登録があり、また、登録令には附記登録、更正登録、予告登録等があるところ、登録令二一条一項は、「登録」につき、抹消登録の場合を除外する旨の制限を加えていない(なお、登録令二二条一項は、登録申請を受理した場合の登録基準について、新規登録等と抹消登録とを明確に区別して規定している。)。そうすると、登録令二一条一項の「登録」には抹消登録も含まれると解するのが条文解釈として当然である。

したがって、法一五条一項一号の抹消登録申請には登録令二一条一項三号の規定が適用されるというべきである。

2  原告は、法一五条の抹消登録には登録令二一条一項三号(当事者出頭主義)が適用されないとし、るる主張するので、以下検討する。

(一) まず、自動車登録制度は、法(昭和二六年法律第一八五号)が道路運送車両に関し、所有権についての公証を行い、並びに安全性の確保及び公害の防止並びに整備についての技術の向上を図り、あわせて自動車の整備事業の健全な発達に資することにより、公共の福祉を増進することを目的として、また、自動車抵当法(昭和二六年法律第一八七号)が自動車に関する動産信用の増進により、自動車運送事業の健全な発達及び自動車による輸送の振興を図ることを目的として、それぞれ制定されたことに伴って創設されたものである。これにより、自動車登録には自動車の所有権、抵当権を公証する民事的効力が付与されるとともに、個々の自動車の保有実態が正確に把握できるようになり、自動車の安全性の確保とその適正な使用が図られるほか、今日では、自動車損害賠償責任保険契約の締結の確認や自動車税、自動車重量税の徴収に活用されるなど、自動車に関連する諸々の行政目的を達成するのに不可欠の制度となっている。

(二) このような自動車登録制度の下において、前記のとおり、当事者出頭主義が採用されているところ、それは主として次のとおりの趣旨に基づくものと解される。

(1) 申請意思の確認による登録の真正担保

自動車の登録申請においては、登録の真正の保持と登録事務の迅速な処理を達成するため、電子情報処理組織により行われる(法六条、登録令七条)とともに、書面主義が採用されていることから(登録令一四条ないし一九条)、登録官は、提出された書面と自動車登録ファイルのみによって登録審査を行わざるを得ない。そこで、登録令一〇条は、登録の真正を担保する目的で共同申請主義を採用するほか、申請人の出頭を求めることにより、登録官が直接に当事者の真意による申請であるかどうかの確認ができるようにして、一層の登録の真正を図っている。

(2) 順位保全

自動車の登録においては、登録順位が所有権や抵当権の得喪変更など実体法上の効力の順位を決する基準となることから(法五条、自動車抵当法五条、一〇条)、手続の明確性及び公正性が強く求められるところ、登録令二三条は、登録申請を受理した順序に従って登録しなければならないと規定している。しかるに、郵送等による申請では登録申請の受理の前後関係を明確かつ公正に把握することは困難であり、手続の明確性、公正性が損なわれることになる。そこで、申請人の出頭の先後によって登録申請の受理の順序を決定し、登録順位の明確性、公正性を図っている。

(3) 即日補正の便宜

登録申請書又は添付書類等に不備、不足がある場合において、登録官としては、申請人が出頭していれば、意思確認を行った上で補正させることができるが、申請人が出頭していないときは、意思確認も補正もできず、職権で補正する権限もないから、その申請による登録はできず、再申請を求めることにならざるを得ない。したがって、当事者出頭主義は、即日補正による手続の一回的な処理という意味で、申請人に便宜を付与するとともに、迅速な登録事務処理にも役立っている。

以上によれば、当事者出頭主義は、自動車登録制度の目的を達成するのに必要かつ合理的な制度であるということができる。

(三) そこで、かかる当事者出頭主義の必要性、合理性が法一五条一項一号の抹消登録の場合にも妥当するか否かについて、さらに検討する。

(1) まず、抹消登録の申請には、法一五条一項の申請と法一六条の申請があり、法一五条一項の申請は、滅失、解体、用途廃止(一号)又は当該自動車の車台が新規登録の際に存したものでなくなったとき(二号)の手続であり、登録自動車の実態喪失により、再登録が行われないことが前提となっているのに対し、法一六条の申請は、所有者が当該自動車を運行の用に供するのをやめた場合、すなわち、一時使用中止の手続であり、登録官は抹消登録証明書を交付し、以後、中古車として新規登録(法七条一項)を行うことができるものである。したがって、法一五条一項の申請と法一六条の申請は登録原因のみならず、再登録の可否の点で大きく異なるものである。

そして、証拠(甲二の1ないし5、乙五の1ないし3、六、証人有馬順一)及び弁論の全趣旨によれば、平成九年の鹿児島陸運支局における登録申請は合計約二九万件、そのうち抹消登録は、法一五条の申請が約二〇〇〇件、職権抹消(保有実態の把握のため検査登録事務所が行っている。)が三〇〇〇〜四〇〇〇件、法一六条の申請が約六万件であり、法一六条の申請の約三〇パーセントが中古自動車として再登録されていること、登録申請は、行政書士が代理人としてするのが通例であるが、近年、当事者本人の申請が増え、二、三パーセントが本人申請となっており、その場合は、特に申請書の記入漏れが多いため即日補正をしており、また、抹消登録については法一五条の申請と法一六条の申請の違いを説明して最終の意思確認をしていること、抹消登録申請書の記入例(乙五の3)によると、①業務種別、⑫抹消(登録原因)、自動車登録番号、車台番号の各欄に間違いが多いこと、所有者の住所氏名に変更がある場合や複合申請の場合には行政書士でも間違いが多くあること、原告の本件抹消登録申請についても、申請書には登録の原因として「用途の廃止」欄にチェックがあり法一五条の申請の形態である反面、添付書類の手数料納付書には、法一五条の申請では不要なはずの登録手数料が三五〇円と記載されて四〇〇円の印紙が貼付され、また、法一六条の申請で交付される抹消登録証明書の受領書も郵送されており、結局、法一五条の申請か、法一六条の申請かが明確でない申請であること、なお、平成九年の鹿児島陸運支局では、一日平均一二〇〇件を一一人の職員で捌いており、郵送による登録申請は、順位保全のほか、誤記の訂正に時間を要し、迅速処理や返戻費用捻出等の点でも問題があり、郵便による登録申請を受理した例はないこと、以上の事実が認められ、これを覆すに足りる証拠はない。

(2) 以上を前提として、当事者出頭主義の必要性、合理性についてみるに、まず、登録の真正を担保する必要性は、保有実態の把握による自動車の安全確保施策のほか自動車税の徴収等の行政目的達成のために、抹消登録申請においても新規登録等と同じく認められる上、抹消登録申請においては、法一五条の申請と法一六条の申請には前記の違いがあるのに両者を誤認した申請が少なくなく、申請意思確認の必要性が特に認められることからすると、申請意思の確認による抹消登録の真正担保の点においても、当事者出頭主義は合理的であるということができる。また、同様の見地から、申請意思の確認による即日補正の必要性、一回的処理による申請人及び迅速な登録事務処理への便宜の点についても、抹消登録における当事者出頭主義には合理性を認めることができる。さらに、順位保全の点については、法一五条一項の抹消登録申請の場合には自動車が実態を喪失し再登録が予定されていないことから、通常は順位保全の必要性が認められないものの、被告主張のような場合、すなわち、①移転登録の手続がされないまま、事実上の転売が重ねられている自動車について、車検証上の所有者と車検証の再交付を受けた事実上の保有者が双方から抹消登録申請をする場合、②二重売買の自動車においては、一方では使用中に事故車となって抹消登録申請をし、他方ではそのような事情を知らずに移転登録申請をする場合もないわけではなく、かかる例外的な場合に対しても、公示制度設営者として明確かつ公正な登録事務処理が求められているのであり、そのためには前記のとおり当事者出頭主義が必要かつ合理的である。

そうすると、法一五条一項一号の抹消登録申請の場合において、当事者出頭主義を採用することには必要性、合理性が存するということができる。

(3) 原告は、当事者出頭主義の非合理性を主張するが、登録の真正担保の点については、車検証等の添付で十分とはいえないのは前記のとおりであり、法一五条の申請と法一六条の申請との誤認につき、法一五条の申請を通常の場合とみるのは実態に反する上、出頭主義による意思確認や即日補正の便宜に代えて登録官による電話確認や返送を求めるのも前記登録事務処理の現実を無視したものであり、法一五条の抹消登録の場合に順位保全の問題はないというのも正当でなく、いずれの主張も採用できるものではない。

(四) その他の原告の主張について

(1) 原告は、法一五条一項一号の抹消登録が建物の表示登記と同じであるとして郵送による申請も認められると主張する。しかしながら、登録令は不動産登記法を基礎に制定された沿革を有するものの、登録令が制定された当時の不動産登記法には表示登記という概念がなかったばかりか、そもそも抹消登録は前記のとおり所有権及び抵当権の得喪変更という権利関係の公示制度の機能を果たしているのであるから、抹消登録と不動産の表示登記を同視することはできない。

(2) 原告は、法一五条の抹消登録を登録官が職権ですべきものと主張する。しかしながら、登録は、法令に別段の定がある場合を除き申請又は嘱託がなければしてはならず(登録令九条)、法一五条の抹消登録も所有者の申請を原則としているのであって、職権による抹消登録はあくまで補充的な規定とみるべきである。また、自動車の登録においては、不動産登記法の表示登記の場合(同法五〇条など)と異なり、職権による登録を担保するための実質的審査権が登録官に与えられていないことから、結局、当事者の申請意思の有無を重視せざるを得ず、それ故、法一五条一項の申請を刑事制裁(法一〇九条二号)をもって義務づけているのである。そうすると、法一五条の抹消登録を職権ですべきものとする原告の主張は、到底採用できない。

(3) 登録令が抹消登録には適用されないという原告の主張は、前記のとおり、条文解釈からみて正当でないのは明らかである。

(4) 原告は、郵便等による申請が当事者に負担をかけず、社会経済的にも合理的である旨の主張をし、行政手続によっては当事者の負担を考慮して郵送等による申請が認められている(甲五ないし七)。しかしながら、自動車登録手続については、極めて多数の申請を迅速かつ画一的に処理することが要請されているところ、前記のとおり、郵便等による申請にはこれを阻害する諸々の問題があり、当事者出頭主義の必要性、合理性が認められるのであって、当事者出頭による負担については、専門家である行政書士等の代理人を利用すれば回避でき、その費用も自動車保有に伴う経費として許容範囲にあるものというべきである。したがって、原告の右主張は採用するに及ばない。

3  以上のとおりであって、法一五条一項一号の抹消登録申請には登録令二一条一項三号の規定が適用されるというべきである。

そうすると、前記のとおり、原告は、本件抹消登録申請に際し、出頭することなく、申請書一式を九州運輸局鹿児島陸運支局あてに郵便で送付してきたのであり、被告が右申請を登録令二一条一項三号の「当事者が出頭しないとき」に該当するとして受理せず、受理できない理由を附した書面を添えて、申請書一式を原告へ返戻した行為は、法及び登録令の規定に従ったものとして、適法なものというべきである。

三  争点3(抹消登録申請に関し登録令一〇条、二一条一項三号の規定は憲法一四条一項に違反するか否か。)について

原告は、法一五条一項一号の抹消登録申請につき当事者出頭主義(登録令一〇条、二一条一項三号)の規定を適用するのは、種子島の住民が非合理的な当事者出頭主義により鹿児島市の住民に比して受忍の限度を超えた負担を強いられることになるから、憲法一四条一項に違反すると主張する。

しかしながら、憲法一四条一項の平等原則は、法律の定立及び適用にあたり合理的な理由のない差別を禁止する趣旨のものであって、法的取扱いを同じくした結果、各人に社会的、経済的その他種々の事実関係上の差異が生じることまで禁止するものではないと解すべきである。原告は、登録令が種子島の住民と鹿児島市の住民とで法的取扱いを同じくした結果、両者間に社会的、経済的不平等が生じていると主張しているものである。

そうすると、憲法一四条一項違反をいう原告の主張は主張自体失当といわざるを得ない。

(なお、原告は、当事者出頭主義が国民に故なく過大な負担をかけているとして憲法二五条二項違反をも主張するが、その趣旨が明らかでない上、前記のとおり、当事者出頭主義は必要かつ合理的な制度であり、それによる負担も過大なものとはいえないから、右主張の前提自体が認められず、同主張も到底採用できない。)。

第五  結論

以上のとおりであるから、原告の請求は理由がないからこれを棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官牧弘二 裁判官山本善彦 裁判官鈴木秀行)

別紙物件目録<省略>

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